飼育ガイド ビギナーのためのオオクワガタ飼育ガイド

かつて「黒いダイヤモンド」とマニアの間で呼ばれ、一大ブームを巻き起こしたオオクワガタ。ブームとともに飼育技術も進歩し、今ではごく一般的なクワガタムシになりました。それでも人気が廃れないのは、やはりオオクワガタが日本を代表するクワガタムシだからでしょう。

昔から流通するオオクワのほとんどがいわゆる「ブリード物」ですが、ブリーディングの目的や方向は深化し続けており、大あごの太さ、全体的なフォルムの美しさ、90mm台を狙う極限の大型個体作出など、複合的な要素を競い合う形になっています。

多くの人を魅了してやまないオオクワガタは流通量が多く、産卵方法や幼虫の飼育方法も確立されていることから、これからクワガタムシの飼育を始めようとする人にとり扱いやすい種類だといえます。ここでは、これからクワガタ飼育を始められる方を念頭に、初歩的なところからオオクワガタの飼育方法について解説いたします。

※累代飼育(るいだいしいく):何世代にもわたって子供を増やし繁殖させること。小動物や大型のペットと同じく、ブリード、ブリーディング、繁殖飼育ともいいます。

》オオクワガタってどんな虫?

オオクワガタは、コクワガタやヒラタクワガタとともにDorcus属(ドルクス属)に分類されるクワガタムシで、日本のクワガタムシの中では最も大きくなる種類のひとつです。

オオクワガタのオス(福岡県久留米市産)

沖縄や離島を除く(長崎県の対馬には生息)日本全国に分布していると思われますが、まとまって生息する「多産地」以外は極端に採集事例が少ないのもこのクワガタムシの特徴です。そもそも野外でめったに採れないことも人気の大きな理由でしたが、昔に比べて野外で見かけることがますます難しくなっており、環境省レッドリストの絶滅危惧II類に記載されています。

産地としては、過去には、山梨県韮崎市周辺、大阪府豊能郡能勢町周辺、福岡県と佐賀県にまたがる筑後川流域が、特に「三大産地」として知られてきました。

生息地のひとつ、筑後平野の風景

生息環境は、地域により異なりますが、比較的標高の低い山地か平野部のいずれかです。たとえば先の三大産地では、山梨と能勢の生息地は山間地、福岡・佐賀の生息地は完全な平野部で生息場所が住宅地と重なっています。

三大産地以外では、平野部の生息地として筑後川とほとんど同じ景観を持つ愛知県の木曽三川流域があげられます。また、福島県では標高の高い地域で採集されています。

生態面では、他のクワガタムシに比べ飼いやすいという特長を持っています。ヒラタクワガタなどと比べてオオクワガタは気性がおとなしく、ていねいに扱えば挟まれることもめったにありません。

また、とても丈夫で寿命も長く、成虫になってから普通2~3年、中には5年も生きるものがいます。

その飼いやすさ、工夫次第で大きな成虫に育てることができることなどから、最も人気のあるクワガタムシのポジションをキープし続けています。

》成虫の飼い方1 飼うための準備

オオクワガタの成虫はとても丈夫で、少しぐらいの餌切れで死んでしまったりすることはありませんが、やはり飼う以上、長生きしてもらいたいものです。

オオクワを長生きさせるコツは二つ。ひとつはきちんとした間隔で餌をあたえること。そしてもうひとつは飼育ケース内の乾燥や高温によるムレに注意することです。

それでは、まず、オオクワガタを飼うにあたって最低限必要なものをそろえましょう。

用意するもの
飼育ケース

もっとも入手しやすいのはプラケース(プラスチック製の水槽)でしょう。ミニ、小、中、大の各種サイズがあり、ホームセンターなどでも入手できます。

ブリードスペースに余裕があればプラケースの中か大、省スペースを考えるならプラケース小がいいでしょう。

[プラケースのサイズ(目安)]

プラケースミニ:縦11センチ×横16センチ×奥9センチ、1.4リットル
プラケース小:縦13センチ×横21センチ×奥13センチ、3.5リットル
プラケース中:縦17センチ×横28センチ×奥17センチ、7.5リットル
プラケース大:縦19センチ×横32センチ×奥18センチ、12.6リットル

プラケース以外では、フタ付きのコンテナボックス、小型の衣装ケースを利用することもできます。
埋込マット(昆虫マット)

マットというと体育館にある運動用具やお風呂用など何かシート状のものを連想してしまいますが、昆虫用品の場合、要はオガクズ(オガコ、ノコクズ)のことで、腐朽済みの広葉樹(クヌギやコナラなど)を粉砕し、発酵させたものが一般的です。

埋込マットを入れる量は、ケースの容量の3分の1から2分の1程度が目安です。夜行性のオオクワガタが中にもぐって休んだり、中に産卵用の材を埋め込んだときに材の湿度を保たせる役割を持っています。

また、マットは適度に湿っていないといけませんが、極端に湿りすぎていてもいけません。おおよそ、手のひらでぎゅっと握ってサラサラとこぼれない程度、手に少し湿り気を感じるぐらいを目安にします。

産卵木をセットするときは産卵木自体にたっぷり水を染み込ませので、埋め込み用のマットはさらに湿り気が少なくてもかまいません。
木ぎれ(木片)
ケースのなかにマットしか入れず表面にでこぼこがないと、クワガタがひっくり返ったときに起きあがれず、弱ったり、そのまま死んでしまうことがあります。

これを防ぐために木ぎれや枯れ枝、産卵木の樹皮、破片などを、マットの上に適当な間隔をあけ置きます。エサ皿や「サボテンの骨」のような大きめのものを入れておくと、その下に潜り込んで休む場所にもなります。簡単なものでは、産卵木を割ったもので充分です。

写真は「サボテンの骨」と呼ばれるもので、隠れ場所にもなります。
昆虫用ゼリー
小さなカップに入っていて、基本的に人間が食べるゼリーと同じものです。クワガタムシ用にタンパク質やトレハロースなど栄養素を添加したものが一般的です。いくつかサイズがありますが、オオクワガタの場合は1個16g入りのものがよいです。
その他、あると便利なもの
・シャベル(スコップ):埋め込みマットを容器に入れるときなど。500mlのペットボトルを加工して作ります。
・霧吹き:マットを湿らせるときに使います。
・ピンセット:食べ残しの餌を捨てるときなど。少し大きめのものが便利です。
・プラスチックのスプーン:産卵させてからですが、幼虫を回収するとき傷つけないようにすくいます。一番のお薦めはアイスのスプーン。捨てずに残しておくとよいです。

》成虫の飼い方2 普段の世話の仕方

エサの与え方

成虫の餌は主として「昆虫用ゼリー」ですが、バナナやリンゴをときどき与えるとよいです。

餌を交換するタイミングは、残りが少なくなったときのほか、カビが生えたときなどに交換します。最低でも1週間に1回は交換しましょう。

また、飼育ケースに入れたマットの表面を観察して、乾いてきているようなら表面が少し湿るぐらい霧吹きしてあげましょう。クワガタムシの体に水がかかってもかまいません。ただしやり過ぎは禁物。マットがジュクジュクになってしまわないよう注意します。

餌は、オオクワガタが姿を見せなくなって食べた形跡がなくなる10月くらいまで与え、年を越したあとは成虫が再び姿を現す4月、5月くらいから与えはじめます。

越冬のさせ方

オオクワガタは、成虫になってから数年生きることができるクワガタムシです。冬季(11月頃から3月頃まで)はエサを食べることはなく冬眠します。冬の間は世話をする機会が減りますので、気がついたら容器の中がカラカラになっていたということがないよう、乾燥に十分注意します。

越冬に際しては、埋め込みマットがケースの半分以上になるように足してあげるとよいでしょう。マットが少なすぎると乾燥が早く進んだり、寒さが直接クワガタに伝わるためよくありません。さらに大きめの木ぎれをマットに埋めておけばベター。マットと木ぎれのあいだに隠れてじっとしています。

夏場と違いムレる心配はありませんので、ケースの上(開口部)はビニールで覆ってもよいです。ビニールは、空気が通るよう真ん中に3センチ程度の穴をひとつハサミなどで開け、プラケースの上にかぶせます。さらにその上を通気性のある紙(新聞紙など)や不織布(防虫シート)でおおい、最後にフタをします。

こうしておけば、冬の間は霧吹きをほとんど必要とせず、ときどき乾いていないか確認するだけでよくなり、手間をかけないで越冬させることができます。

系統(血統)の管理

オオクワガタをはじめ、販売されているクワガタムシのほとんどは、産地がデータとして表示されています。

飼育品の場合も、その元親の産地が表示されており、別々の産地を掛け合わせているものは、(ブランドとして確立されているものは別かもしれませんが)基本的に例外です。

これはもともと、クワガタムシの累代飼育が、昆虫採集・昆虫標本収集という趣味から派生したものであることが原点にあります。採集地と採集日等のデータのないものは標本としての意味がなく、手元にあるクワガタムシをデータとともに管理するのは当然のことだったからです。

また、同じ種類でも採れた地域によって微妙な差異(※)のある可能性があるとことや、産地によって大型化しやすい、あるいは大あごが太くなりやすいなどの差があると考えられていることも、その背景にあります。

※例えば九州産のオオクワガタは、東日本産のオオクワガタに比べ、大あご先端のカーブが強い個体がより多く出る、という見方があります。

成虫を飼育する場合も、のちのち産卵させることを考えると、産地ごとに飼うのが基本で、次のようなデータを付けて管理します。

1)野外品か飼育品かの別。飼育品の場合は累代数
2)羽化時期。天然物は入荷時期
3)産地。国産の場合は市町村名と、分かる場合は大字名。外国産の場合は、州名や県名、都市名

》累代飼育にチャレンジ

オオクワガタのペアを手に入れたら、累代飼育にチャレンジしましょう。

累代飼育のためのセットは、基本的には成虫の飼い方で説明したのと同じです。それにプラスして、産卵させるための材が必要になります。

ペアリングする

ペアリングといっても特別なことではなく、オスとメスをいっしょにして飼っていると、自然に交尾してくれます。

大事なのは、メスが羽化してからどれぐらい経っているかです。天然物だと分かりませんが、飼育品であればおおよその羽化時期が販売時に示されているはずです。あるいは「即ブリード可能」と書かれて売られていることもあります。

いちばん望ましいのは、前年の晩夏までに羽化し、越冬して春を迎えた個体です。それ以外でも、羽化後おおよそ半年経っていれば普通は産卵可能になっています。

オスの場合は、羽化後数カ月経ち、餌を食べ始めているようならペアリングできます。

小さな容器に長くいっしょに入れておくと、ごくまれにオスがメスをはさみ殺してしまうことがあります。メスが交尾をいやがって逃げるしぐさを繰り返すようなら、メスがまだ性的に成熟していない可能性があります。そういうときは、オスとメスを離して様子をみてください。

産卵前は餌にも気を配ります。普段与えている昆虫用ゼリーに加え、バナナやリンゴなど、たんぱく質をより多く含むエサを与えます。

また、成虫の管理のとこでも触れましたが、累代飼育は同産地の個体同士を掛け合わせるのが基本と考えたほうが無難でしょう。

産卵用セットの準備
1)産卵用の材を用意する

産卵用の材には、大きく分けると2種類あります。

ひとつは、「産卵木(産卵飼育材)」として昔から販売されているもので、キノコ(ほとんどが椎茸)で腐朽したクヌギやコナラの材を乾燥させ、適当な長さ(14cmが業界標準)でカットしたものです。

もうひとつは「菌糸材」です。クヌギ材にキノコの菌を植菌・培養したもので、オオクワガタの場合は「ハイパーニクウスバ材」が適していて、時に爆産することがあります。

産卵木(産卵材)」。長期保管できるよう乾燥させてありますので、水を吸わせたあとセットします。

オオクワガタの産卵数UPに効果がある「ハイパーニクウスバ材」。袋から出してセットします。 こちらの記事「オオクワガタ×ハイパーニクウスバ材」で使用例を紹介していますので、ご参照ください。


2)産卵木に水を吸わせる

菌糸材は製造過程で十分な水分を含ませていますので入手したあとすぐに使えます。

産卵木(産卵材)は乾燥させてありますので、使用前に適度に水を染み込ませてやる必要があります。

単純に水を張ったバケツに産卵木を入れ、石で重しなどして数時間、水に沈めるという方法もありますが、次のようにすれば、必要以上に水を含ませることなく加水できます。


(1)バケツや桶、植木鉢の皿、バットなどを用意します。
(2)用意した容器に底から数センチ程度の水を入れ、産卵木の切断面を下にして、材を立てるように置きます。
(3)材はゆっくり水を吸い上げます。途中、水がなくなったら足し、上側の切断面に水がにじみ出したらOK。その状態で十分加水できています。

3)産卵木をケースにセットする

菌糸材や加水済みの産卵木をケースにセットします。

材は、通常、横に寝かせて置きます。中プラケとMサイズの材を使った場合は、2本、斜めに並べて配置します。そのあと、まわりをマットで埋めてしまいます。

このとき産卵木自体が十分な水気をおびていますので、マットはやや乾燥気味でもかまいません。埋め込みマットを手で握って、手のひらに水分を感じる程度で十分です。

当店の「埋め込みマット」の場合、ある程度水気を含んでいますので、ほぼそのまま使えます。含水量は季節によってややバラツキがありますので、乾燥気味の場合だけ水を加えます。

最終的に産卵木はマットの中に埋め込みます。おおよそ材が半分~8割程度隠れるぐらいがよいでしょう。

また、親の虫が転倒しても起き上がれるよう、木ぎれをマットの表面にまいておくことも忘れないようにしてください。

プラケース中とMサイズの材を組み合わせた例。すこしずらして斜めに置くことで、2本の材がケースにすっぽり収まります。こう配置することで、メスが産卵できる面が増えます。
このあと、材は埋込マットで8割方覆ってしまいます。

4)産卵セットの管理方法

産卵用の準備ができたら、親を移します。メスだけ移してもいいですし、オスメス両方を入れてもかまいません。

ただし、オスメスの両方を入れていると、まれにオスがメスを挟み殺してしまうことがありますので、リスクを回避するうえでは雌雄は別にしたほうが無難です。

あとは「成虫の飼い方」で説明したとおりですが、交尾済みのメスは産卵のためあまり姿を見せなくなります。逆に言えば、メスが見えなければ産卵している可能性大。「メスがいない」とマットを掘り返したりせず、餌切れに注意しつつ静かに見守ってください。

ケースの置き場所は、ベランダなど屋外の場合には直射日光が当たる場所は絶対に避け、風通しのよい場所を選びます。屋内でも窓際など温度変化の大きなところは避けてください。

交尾済みのメスは、平地の気温の場合、5月から9月中旬ごろまでが産卵が可能な期間です。

産卵済みの材は、親から離してしばらくおきます。親が材をバラバラにしてしまったり、親が幼虫を食べたりすることがあるからです。

おおよそ、産卵木をセットしてから1カ月もしくは1カ月半で取り出すのがひとつの基準です。

[例]

1回目 5月初旬にセット → 6月中旬に産卵木を回収
2回目 6月中旬にセット → 7月中旬に産卵木を回収
3回目 7月中旬にセット → 8月下旬に産卵木を回収

このように産卵木をローテーションさせることで、より効率的に産卵させることができます。

ただし、1回のセットで30個以上を産んでいるようであれば、次のセットは少し間をあけ、バナナなど栄養価の高いエサを与えて休養させたほうがよい結果につながります。

親から離した産卵木は、湿度が保て、かつ空気の通りがよい容器に入れ、離してからさらに1か月置いておきます。

特に初心者の方は、こうすることで回収間際に産卵されたものも孵化して幼虫になった状態で取り出すことができます。

※産卵済みの材を保管する際は、容器の内部が高温になってムレたり、密閉状態になって酸欠になったりしないよう注意しましょう。

》幼虫を飼育して成虫にする

材からの幼虫の割り出し

親から材(産卵木)を離して1カ月~1カ月半たったら、いよいよ幼虫の割り出しです。うまく産卵していれば、材のなかに幼虫がいるはずです。

マイナスドライバーなどを使ってていねいに少しずつ、産卵木をバラしていきます。材のなかに細長くオガクズが詰まっていたら、それは幼虫が材を食べたあと=食痕(しょくこん)です。その近くに幼虫がいますので、食痕を追いかけるようにして、幼虫をつぶしてしまわないようていねいに作業しましょう。

親から材を離して1カ月程度たったもの。材の中で幼虫が育ち2令になっています。「食痕」もたくさん見えます。この食痕を追いかけるように、材を少しずつ崩していきます。

幼虫を育てる

産卵木から取りだした幼虫は、共食いをふせぐため、そしてより大きく育てるために1匹ずつ別々に育てます。

幼虫の育て方は、どんなエサを与えるかによって、おおきく三つに分かれます。

1)菌糸ビン飼育

キノコ栽培で使われる「菌糸ビン」をクワガタムシの飼育に使った方法です。

殺菌したオガクズに栄養素を加え、オオヒラタケやカワラタケなど特定のキノコをビンの中で培養したものを使います。

現在、オオクワガタをはじめとするほとんどのクワガタは、この菌糸ビン飼育が主流となっています。

[メリット]
・比較的容易に大型を狙える
・食用キノコと同じ技術が使われているため衛生的
・幼虫が食べ進むことによって菌糸の白い部分がなくなっていくので、適切な交換時期が目で見てある程度判断できる
・大量生産が可能で、供給量が安定している(比較的、いつでも手に入る)

[デメリット]
・交換時期が遅れすぎると、菌糸ビンが劣化し蛹化不全や羽化不全を起こす
・孵化したての初令をそのまま入れると、菌にまかれて落ちてしまうことがある

※蛹化不全、羽化不全:幼虫から蛹になるときや蛹から成虫になるとき、うまく脱皮できず、奇形が発生したり死んでしまったりすること。

交換時期が迫ったオオヒラP850。黒っぽくなっている部分が幼虫の食べ進んだあと。白い菌糸の部分がビン全体の3分の1程度になったころが交換の目安です。

交換時期が遅れた菌糸ビン。白いところがほとんど残っておらず、菌床の劣化も始まっています。なるべく早い交換が必要です。
ちなみにこれはオオヒラタケやカワラタケの例で、MT160(シワタケ)菌床の場合は、この状態でも交換しません。(詳しくは「MT160(シワタケ)菌床」のページをご覧ください)

2)マット飼育

マット、つまりオガクズを使って飼育する方法で、マットに栄養素(小麦粉やフスマなど)を加えて発酵させた「発酵マット」が一般的です。

菌糸ビンが登場するまでは、マット飼育が主流でした。今でも孵化直後の幼虫には、菌糸ビンに入れるまでのつなぎの飼い方としてマット飼育が有効です。

[メリット]
・エサの交換が必要なのは菌糸ビンと同じだが、多少、放ったらかしにしてもある程度の大きさまでは育ち、羽化不全も少ない
・交換の際、マットから糞をフルイで取り除くことで、再使用が可能
・特に専門的な設備が必要ないため、オリジナルの発酵マットを自作することができる

[デメリット]
・大型を羽化させるには限界がある
・交換時期の見極めにある程度の慣れが必要。主に糞の量などで判断する

現在では、オオクワガタをマットで飼育することは少なくなりましたが、孵化直後の幼虫は、よく腐朽した微粒子マットで少し大きくなるまで育ててから菌糸ビンに入れます。
3)材飼育

多くの種類のクワガタムシ幼虫は、自然状態では広葉樹の朽ち木を食べています。この、自然状態にもっとも近い方法が材飼育で、椎茸栽培で使われた腐朽済みクヌギ材や、カワラタケなど特定の菌を植えつけた材を使います。

マット飼育のさらに前は、オオクワガタの育て方がまだ試行錯誤の段階で、クワガタを育てる方法=この材飼育でした。

[メリット]
・形の良いクワガタが作出でき、前胸背板のディンプルや羽化不全がほとんど出ない
・基本的には長期間、手間を必要とせず、放ったらかしで飼える
・大きな材であれば、複数頭を同じ材で飼育することが可能

[デメリット]
・透明なビンで飼育する方法と違い、成育過程が見えない
・マット以上に大型個体を出すのが難しい
・1頭あたり必要な管理スペースが相対的に大きい

※幼虫の飼育方法としては、大別すると以上の三つですが、「菌糸ビン飼育」と「材飼育」を融合させた飼育方法もあります。(「材入り菌床 フォース」)

》幼虫飼育のポイント

オオクワガタは、卵→1令(初令)幼虫→2令(亜終令)幼虫→3令(終令)幼虫→サナギという順をへて成虫になります。

幼虫期間は産卵された時期や飼育方法によってかなり変わってきます。常温で飼育する場合、幼虫期間はメスが約1年、オスで1~2年です。遅い時期(8月、9月)に産卵されたものは、幼虫期間が2年になるものが多くなります。

菌糸ビンを使い、年間25度程度の恒温環境で飼育すると、早ければ半年程度で羽化してきます。

餌の交換

菌糸ビンの場合は、菌糸の白いところが3分の1程度になったときが交換時期の目安です。それを過ぎて放置していると、やがて菌床が縮みだし、餌として食べるところが次第になくなります。さらにそのままにしていると、最後はドロのようになってしまい、蛹化不全や羽化不全につながります。

菌糸ビンにはいくつかのサイズがありますが、幼虫の大きさや雌雄の別で、交換するビンの大きさを決めます。

マット飼育の場合は、糞が多くなってきたら交換のタイミングです。マットの中にコロコロした糞が目立ってきたら、新しいマットと交換しましょう。その際、以前食べていたマットからフルイで糞を取り除き新しいマットと混ぜてあげると、幼虫が新しいマットにより早く慣れることができ、結果的に大きな個体が出やすくなります。

餌を交換する時期は、常温で飼育している場合、厳冬期と蛹になる時期をはずします。前年の夏までに生まれた幼虫は、次の年の4月~8月の間に蛹になり、約1カ月の蛹の期間を経て、5月~9月に成虫になります。

ビンで飼育している場合、成虫になるときはたいがいビンのすみに蛹室(ようしつ)という部屋を作ります。ビンの外から見て、ビンの隅に空洞ができ、中の幼虫がじっとしているときは蛹になる準備をしている可能性が高いですので、そのまま成虫になるのを待ちます。

成虫になってからも体が固まるまでビンから取り出さず、羽化してから最低1カ月はそのままにしておきましょう。


ビンの端に縁取りのある空間が見え中で幼虫や蛹がじっとしていたら、それは蛹室です。上の菌糸ビンは、状態としては交換時期が来ていますが、蛹室ができはじめているようなら様子をみます。

》その他の注意点など

成虫の餌交換時の注意

クワガタムシは人の気配がないと、ケースの中を動き回っています。気を付けて大事に飼っていても、何かの拍子に脱走してしていまうことも。例えば、ケースのフタを閉め忘れたり、うまくフタがしまってなかったのかもしれません。

特に注意したいのが、餌の交換時。オオクワガタの場合、見過ごすことはほとんどありませんが、餌の中に超小型のメスが潜り込んでいることがあります。

バナナを大きめに皮ごと与えている場合は同様に要注意です。メスが潜り込んでいる可能性があるからです。

また、容器のフタのすみにクワガタがくっついていることがあります。エサ交換のときに見過ごして逃がしてしまわないようにしましょう。

幼虫回収時に卵が出てきた場合

幼虫を割り出したタイミングが早すぎて卵が出てきた場合、回収して孵化させます。プリンカップなどに少し湿らせたティッシュペーパーを敷き、その上に卵を置いて乾燥させないようにし、孵化を待ちます。

無事孵化したあとは、そのまま菌糸ビンに入れると菌に巻かれてしまうことがあるので、一旦、よく腐朽した微粒子マットに入れ、初令の中期まで育ってから菌糸ビンに移します。

材から卵が出てきた場合、湿らせたティッシュの上で孵化させます。

事故を防ぐ

産卵させるときにはオスとメスを同じケースに入れてペアリングせさる必要がありますが、交尾後もオスとメスを同じケースで飼っていると、ときにオスがメスを挟み殺してしまったり、産卵のためにたんぱく質不足になったメスがオスを襲って食べてしまうことがあります。

必ず起こるわけではありませんが、こうした事故を防ぐため、メスが産卵を始めたら、オスを別のケースに移すのが無難です。

産卵木の雑虫について

ハウス栽培ものの材でも、まれに雑虫が入っていることがあります。その多くはゴミムシダマシやキマワリの幼虫で、クワガタ幼虫に直接害を与えるものではありませんので、あまり心配しなくても大丈夫です。

しかし、どうしても気になるという場合は、加水時に材を熱湯につけ、冷めてからセットします。熱湯を扱うときはやけどしないよう、十分注意してください。

菌糸材(オオクワガタの場合は「ハイパーニクウスバ材」)は、製造過程で高圧滅菌されているため、雑虫や雑菌は完全に駆除されています。


飼育ガイド ビギナーのためのオオクワガタ飼育ガイド